ただの雑駁

理屈と均整を求めたがります。仕方ないですよね。人間だもの。

【感想】劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」

【ネタばれ有り】

表題の映画を拝見してきました。
映像作品に対して抱く感想というのは、言葉では言い表すのが難しい部分がある程度あると思っており、本作もその類なのかな、と思っています。Fateに対して色々な想いがあればあるほど、取り合えず観ましょう、と。何も裏切らない傑作なのは間違いないです。

【型月作品に対する理解について】
古参ではありませんが、そこそこ型月作品に触れてきているとは思います。月姫空の境界、stay night、hollow ataraxia、Extra、DDD、魔法使いの夜FGO奈須きのこ原作作品には目を通しています。最も好きな作品は空の境界なのですが、stay nightもそこそこ好きです。

筆者の背景も説明したところで、以下感想になります。

奈須きのこに対する最も本質的な部分の理解は、文庫版空の境界(中)の菊池秀行氏のあとがきが最も的を得ていると感じます。
最終的に描くのは、滲み出る「人間性」なんですよね。Heaven's FeelもFateの最終ルートですが、根本的には人間書いています。月姫の最終ルートの琥珀ルートも人間書いていますし。
Fateって
Fateルート = Fateの理解(伏線張り)
UBWルート = エミヤの理解(主人公伏線回収)
・HFルート = 聖杯戦争の理解(全ての伏線回収)

みたいな感じだと思うんですけど、FateルートとUBWルートってどうしようもなくエンターテイメントなんですね。
Fateルートとか分かりやすく王道展開ですし、UBWルートも主人公が自己を理解していく過程とその先を描いている王道的漢の戦いなんですけど、HFルートってちょっと違うんです。今まで機械的だった士郎は自己を曲げてまで桜のための正義の味方になりますし、ルートヒロインの桜なんて非処女ラスボスのダークヒロインですよね。聖杯戦争に触れることで魔法に関しても触れられて、大聖杯とか小聖杯とか小難しい設定が出てきます。
そんなこんな?で当時はHFルートが批判されていたのをよく覚えています。今じゃ手の平返している人が多いような、、映像化してしっかり理解できたのか、肯定的な意見が多い気がします。

そういった設定はさておき、HFの本質に関して視点を変えると、やはり「人間」書いているんですよ。
士郎は呪いともいえる歪な正義の味方という意識を捨て去り、桜のためだけの正義の味方になります。
凛は魔術師である前に姉であることを認識してしまいます。
桜は人形ではなく、人間性を取り戻そうとします。
こうした登場人物全員の人間性ともいえる、温かな部分が滲み出るのが最終ルートであるHeaven's Feelです。
奈須きのこの良さの一部として、孤独の中に見える温かな人間味の部分だと思っています。歪みを抱えつつ、孤独を抱えつつ、矜持を抱えつつも人間らしさが滲み出る演出がとても染み入るところではないでしょうか。
個人的にはこういった染み入るようなきのこの良さが描かれているのが、「月姫琥珀ルート)」や「空の境界」、「魔法使いの夜」な気がしています。Fateだと桜ルートなので、奈須きのこに触れる、というのはFateでは最終ルートである桜ルートでようやく少し触れるのかな、と。こういった部分の演出も本当にしっかりしていました。

  • 須藤監督

本作はこの一言に尽きます。「須藤監督、有難うございます。」
バトルシーン、本当に言うことがありません。完璧すぎるほどの出来栄えです。
Nine Bullet Revolverとか“この魂に憐れみを”とか“熾天覆う七つの円環“とか、最高でした。

細かな演出、これもまた言うことがありません。
士郎の葛藤、桜の不安定さ、凜の迷い、どのシーンも文句の付けようがありません。
第一章を初日に観に行ったのですが、冒頭に桜の過去を挟んで、士郎との出会いを丁寧に明瞭にした時点で安心しました。ああ、須藤監督は凄いな、と。正直この桜の過去のところでもう既に色々と察して泣きました。第三章まで見たら分かると思いますが、第一章の冒頭シーンって全てを知ってたら感動してしまいます。。

他にも音楽や背景や色々とべた褒めポイントはあるのですが、まぁ述べるだけ無駄かな、と。観ることには適いません。
(なお、橙子さんが友情出演した件に関しては喜びを隠しきれません。)

  • 同族嫌悪、対極の存在

Heaven's Feelって誰の話かと言われると、間違いなく士郎と桜のお話なのですが、視点を変えると外道神父のお話です。
言峰綺礼、めっちゃ大好きです。人とは異なる価値観で生れ落ち、他者の幸福に喜びを見出すことが出来ず、他者の苦痛に依って喜びを見出す歪み切った人間。彼って衛宮士郎と対を成す対極なんですよね。
同一線上にいながら真逆の道を歩んでるようなキャラクタで、士郎との共通点が凄い多いんですけど、それを士郎が自覚するのもHeaven's Feelです。彼らは世界が苦しまないと自身の価値を見出せず、自身の生と直結しています。
根本的に悪でしか実感を持てない彼の歪みを理解し、自身を賭ける最後の殴り合い。映画だと長々としたセリフってあまり印象に残らないと思いますけど、あの戦い、そして問いは言峰綺礼衛宮士郎について本質的な部分なので文章だと印象的なシーンです。全てを理解したうえで、あのシーンが映像化されるのはちょっと感涙ものでした。
また、彼の背景である、妻(クラウディア)の描写も最高でした。ああいうシーンが生み出されるのが映像化の良いところですね。
御三家の映像化とクラウディアの映像化が本作の嬉しいオリジナルかと思います。

  • 最後に

Heaven's Feelのラストカット大好きなんですよ。4人の後ろ姿にサクラ。これだけで充分でした。
Aimerさんの曲と共に映像化されるのも悪くはないのですが、個人的な趣味的な部分として、詳細は不要。って感じでした。
ただ、何度も映画を観ることで、あのラストシーンが嬉しく思うこともあるのかな、と思いました。